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ラ・ファミーユ代官山ストーリー

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ラ・ファミーユ代官山ストーリー

物件が紡ぐ物語


私は大学を卒業してから、広告代理店でクリエイティブディレクターとして働いている。今年で、社会人4年目。仕事自体は好きだけど、とにかく仕事量が多く、「同僚や先輩たちが良い人」という一点で、なんとかここまでやってきた。


ただ、最近は少しずつ同期でマネージャーになる人も出てきて、前のようにみんなで助け合って頑張ろう、という雰囲気は薄れてきている気がする。


私は、みんなのように成長や出世を追い求めることよりも、好きなものや人と過ごす時間を大切にしたい。ほんとうは、もっと平穏で、心にゆとりを持った生活がしたい。


入社当初は、私にもみんなのように夢があった。いつか、大好きな美術や建築の良さを伝えられるようなメディアの運営に携わること。


だけど、この4年間の日々はあまりに忙しなく、少しずつ熱が弱まってきて、「自分がやりたいこと」について考えるような時間は、すっかりなくなってしまった。




働き出してから、時間の流れはほんとうに早く感じる。ここへ来てから、もう半年だ。今日は久しぶりにひとりの時間を過ごせる休日で、私は密かに楽しみにしていた。


ぐっすり眠って軽くなった身体で、階下に降りる。リビングにはまだ誰もいないみたい。



ブラインドを開けると、やわらかな光が部屋に入り込んでくる。昨日の夜、卵に漬けておいたパンを焼いて、フレンチトーストをつくる。


ゆっくり時間をかけて、朝ごはんを食べる。ささやかだけど、たしかな幸せを感じるこの瞬間を、私は何よりも大切にしている。




出かける前にここ数日の洗濯を済ませて、部屋の片付けをする。リビングのような共有部分はスタッフさんが清掃をしてくれるから、自分でする掃除の範囲がそんなに広くないのはいつも助かっている。


お気に入りのワンピースを着て外に出ると、心地よい風が頬を撫でた。最近は、暑さも引いてだいぶ過ごしやすい気候になってきた。心なしか、秋の匂いもする。


アプリの地図で方向を確認し、歩き出す。このエリアは坂が多いけれど、そのぶん日頃の運動不足が解消できてちょうどいい。春は桜が満開になるらしく、私は今から、来年の春が待ち遠しい。


今日は、1ヶ月前から気になっていた展示を見に行こうと思っていた。都会に住んでいると、魅力的な展示やイベントが頻繁に開催されていて、日々に飽きることがない。


岐阜に住んでいた頃は、東京の暮らしに憧れていた。大学時代に東京に来てからだいぶ都会にも慣れてしまったけど、ここで暮らすようになってから、今まで遠くてなかなか足を運べなかった展示会場に歩いて行けるようになったことに、毎回感動してしまう。




自分のペースでゆっくり展示を見た後は、近くのお店でお昼ごはん。さっき感じたことをメモしながら、余韻を噛み締める。私もいつか、小さくてもいいから個展を開いてみたいなあ。


心もお腹も満たされて、次はどこへ行こう……。


真っ先に思いついたのは、駅前の本屋さんだった。デザインの勉強のための本や、最近気になっていた作家さんの本を手に取りながら、フロアをぐるっと一周する。最寄駅に本屋さんがあるのも、私にとっては嬉しいポイント。


じっくり吟味して一冊の本を買ってから、家の近くのカフェに移動して、読書タイム。本屋さんが近くにあるのはいいんだけど、駅前は人が多いから少し疲れてしまう。


都会の雑踏に慣れてきたとはいえ、やっぱり私は静かなところのほうが好き。さくら通りを抜けると途端に人も少なくなって、落ち着いた空気が流れているから安心できる。





ああ、今日はだいぶひとりの時間を満喫できたなあ。自分の心の赴くままにしたいことをして、心の栄養補給ができた気がする。


家に帰ると、同居人ふたりがキッチンで料理をしているところだった。「おかえり〜」という声に、「ただいま」と片手を挙げる。夕飯には少し早いし、私は先にお風呂に入って、その後ご飯にしようかな。


お湯を溜めて、ゆっくりバスタブに浸かる。今日はたくさん歩いたから、疲れが癒される……。





お風呂から出ると、同居人たちがちょうど食事を終えているところだった。私よりも少し歳上のお姉さんが、「作りすぎちゃったから、どうぞ」と、手づくりのポテトサラダをお裾分けしてくれる。夕飯は簡単に済ませようと思っていたから、ありがたいなあ。


2年前から私の会社にもリモートワークが導入され、出社の頻度と比例して、人と会話する機会もどんどん減っていった。ひとり暮らしだと、誰とも会話せずに1日が終わることも珍しくない。


「今よりも、人と関われるような環境で暮らしたい……!」と思うようになったのが、ここへ来たきっかけだった。


とはいえ、常に誰かと一緒に過ごしたり、プライベートの時間が全くないのは嫌だった。どこかに程よい距離感のシェアハウスはどこかにないかなあ……と探して見つけたのが、この家だった。


内見に来てみると、すぐにここが私にとってぴったりの場所だとわかった。落ち着いた町の雰囲気も相まって、ここを自分の居場所にしたい、と思った。




食事を終えて、部屋に戻る。この部屋も、この半年で少しずつ自分の居場所だという実感が湧いてきた。



会社に入ってから、日々の忙しさや周りの声に流されて、自分の心を見失っていた。だけど、ここに来てから自分の心と向き合う時間が増えて、少しずつ心が自分のところに戻ってきたような気がする。


まずは、両手で抱え切れるぶんの大切なものを、大切にしよう。自分の心に従って、動いてみよう。



大きな声に惑わされそうになっても、この町に帰ってきたら、私は私の声が聴こえる。


この静かな都会の片隅で、自分にとってのささやかな幸せを大切にしたい。

そんな穏やかな日常が、これからもずっと、続きますように。




※この記事は、架空の入居者の暮らしを描いたフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。物件設備や近隣店舗などは、2022年4月18日時点の情報に基づいて記載しています。


ライター:岡崎 菜波


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